夜も明けきらん早朝、グレゴールの決意のほどを試す機会がやってきた。つまり、着替えをすませた妹が玄関ホールからドアを開けて恐る恐るのぞきこんだ。

妹がグレゴールの姿を目にするまでちょっと時間がかかったが、ソファの下におるのに気づいたとたん──そらどっかしらにはおるわいな、飛んで逃げられるわけやなし──妹は縮み上がって無我夢中で外からドアを力いっぱい閉めた。

けど妹は自分のふるまいを悔やんだらしく、すぐまたドアを開けると重病人か見知らぬ他人のそばにでもおるみたいに忍び足でそうっと入った。グレゴールは頭をソファの端っこギリギリまで押し出して妹をじいっと観察した。

牛乳をまるまる残しはしたけど決して腹が減っとらんわけではないと気づいて妹はもっとグレゴールに合うた他の食いもんを持って来てくれるか? 妹が自分からそないしてくれるんでなければ、こっちから働きかけて気づかせたるより飢え死にした方がマシやとグレゴールは思うた。

そうではあるものの、ほんまはソファの下から飛び出して妹の足元にひれ伏して、なんぞうまいもんおくれと頼みとうてたまらんかった。

妹はボウルがいっぱいのまんまで周りに少し牛乳が飛び散っとるだけであることに気づいて首をかしげると、すぐにボウルを引き上げて部屋から運び出した。もっとも素手やのうてゾウキンで。

妹が代わりに何を持って来てくれるかグレゴールは知りとうてたまらず、あれやこれやと考えをめぐらせた。妹が心底よかれと思うてやってくれたこと、それはグレゴールの予想の斜め上を行っとった。グレゴールの好みを調べるべく選んだもんを古新聞に広げて持って来たのやった。