遠野物語

 

「むかーし、うつくしーい娘っこがいたっす。」

南部曲り家を移築した遠野伝承園の囲炉裏(いろり)の端で、語り部のかなりの訛り言葉を半分は推量で聴きながらオシラサマを語ってもらった。先日、一度は訪ねてみたかった柳田國男の『遠野物語』の舞台、岩手県遠野市に出かけたのである。

オシラサマは東北地方で長く信仰されている家神様で、養蚕、ある時は馬の、又農業の神だったりもするという。

伝承園の建物の暗い廊下の奥に御蚕天堂と呼ばれる一室がある。中に入ると千体ものオシラサマが祀られた堂の何とも言えない迫力に圧倒された。それぞれ幾重にも花模様の布にくるまれた沢山のご神体は二体が一対になっており、一つが娘でもう一つは馬の顔になっている。

飼い馬に恋をし、怒った父親に殺された馬の首を抱いて空に上った娘はその地方の蚕の神様になったという。『遠野物語』の中でも代表的な話である。当時多かった南部曲がり家は馬と一つ屋根に住む形の家屋であるから、そんな伝承が生まれた背景が想像できる。

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