平八郎は吉見英太郎という同心の息子に問うた。

「は。年貢を取り立てる徴税でありましょうか」

俯きながら答えると、塾頭はぎょろりと目を剥いた。

「あほう! 次、河合」

河合八十次郎も東町奉行の同心見習だ。

「は、民を監視し管理することかと」

「このどアホども!」

一同は一喝に怯んだ。

「民を守ること、やろがい。どいつもこいつも、何を驕り高ぶっとんじゃい。武士はな、何も作り出せへんねん。言うたら百姓や町人に食わせてもろてる居候や。いざというとき役に立てなんだら、武士の方が家から追い出されるんや。

『れぼるうしょ』……えげれすの思想家ジョン六いうおっちゃんが唱えた、全ての民に天から与えられた権利や。わしはこの『れぼるうしょ』いう伴天連語をこう訳した」

平八郎は半紙に「革命」と書いて掲げて見せた。

「易経の言葉や。自分は天命を受けたと言い張る権力者どもを革める、即ち『革命』や。現に海の向こうでは、ナッポレヤンいうあんちゃんが王朝をひっくり返しとる。けど、わしはただの権力闘争とは別の意味で『革命』と呼びたい。己の命、運命を革めることこそが、真の革命なんや」

そんなことを言う侍は初めてだったので、カイは平八郎をまじまじと見る。

(カクメイ? かくめい、革命、か)

字は読めないが、カイはその響きを反芻した。

「陽明学では……」

と補足しようとする前に、カイは立ち上がっていた。