第一章

琴音がそう言ったにもかかわらず光一は反応せず考え込んでいた。

女将は奥の客に呼ばれて場を外したが、そこにいた誰もが光一の次のひと言を待っていた。やがてぐい飲みの酒を一気に飲み干すと、ようやく口を開いた。

「つまりテレビのインタビュー番組に出演した直後、先代社長は何者かに殺された、と。話の断片をつなぎ合わせるとそういうことになるよな」

「え、殺されたって、だれがですか? もしかしてその守屋さんと言う人?」

琴音が好奇心で目をキラキラさせながら身を乗り出してきた。琴音の好奇心に火がつくと、もう手には負えない。まるで駄々っ子のように騒ぎ始める。

「光一さん、いいんですか? かん口令……」。

啓二が釘をさす。

「かまわない。琴音はスタッフの一員だ」

光一は、他言は無用の前置きをし、声のトーンを少し落としながら説明を始めた。

「息子の若社長の話によれば、先代社長は自宅の書斎で首をつって死んでいたという。たぶん店のイメージもあるから、マスコミには病死だと発表したんだろう。問題は自殺のしかたなんだ。

書斎のドアノブにひもをかけて死んでいた。その姿勢だとほとんど上半身の重みだけで首をつることになる。若社長が目撃した印象ではあまりにも不自然だし、自殺の動機がどうしても思い当たらないと。警察は詳しく調べもしないで自殺と断定してさっさと処理したというんだ」