一気にここまで話すと、光一はぐい呑みの酒を飲み干してからさらに続けた。

「そして彼は、死ぬ間際にあるコトバを残したんだ……」

「それが、光一さんが書いた本の間に挟まっていたんですよ」

「その人、光一さんの本を読んでいたんですか。で、そのコトバって……」

「ヒエタノアレモコロサレキ」

「ヒエタノ……。なんですかそれ、なにかの呪文みたい。でも、ヒエタノアレってどこかで聞いたことがあるような……。あ、そうだ、確か『古事記』の……」

「琴音ちゃん、知ってるんだ」

「常識ですよ、な~んてね。学校で習ったとき、ヘンな名前だな、って思ってずっと覚えていたんですよ。ヒエタノアレですよ、日本人じゃないみたい。それに男なのか女なのかもわからないし」

「そんな名前、学校の教科書に出てきたっけ。たまたま学校休んだときかなぁ」

琴音と啓二の会話を黙って聞いていた光一は、ひとり言のようにぼそりとつぶやいた。

「見ておいたほうがよさそうだな……」

「えっ、なにをですか?」

いままで話していた二人が光一に向きを変え、きれいにハモりながら聞いた。「先代社長が亡くなっていたという書斎だよ」