時空の溶解
街なかのウィンドウに映る自分の姿を見て、工藤修也は足を止めた。彼女は本当に気づくのか? こんなみすぼらしい自分に。
40手前で白髪頭。頬はこけ体の肉も削げ落ちている。冴えない男の姿に愕然とするが、すぐに思い直す。
そうか、彼女が会うのはあの頃の自分なのだと。まだ若々しく、意気揚々と青春を闊歩していた自分なのだと。
工藤は再び歩き出しツーブロック先を左に曲がった。お目当ての巨大なビルを見上げる。46階建て。噂に違わぬマンモス企業だ。
ビルに入り体内に埋め込まれたチップで予約確認を済ませた。エレベーターに乗るとセンサーは勝手にチップを読み取って、工藤を24階で降ろした。しばらく廊下を歩くと『体感室』のプレートが目に入いる。一つ深呼吸して工藤はインターフォンを押した。
重厚な扉が開くと、目の前に担当の柴崎が立っていた。
PCのモニター越しで何度かやり取りしている。会うのは初めてだが、やはり内面を感じ取れないのっぺりとした顔をしていた。
「工藤様、お越しいただきありがとうございます。どうぞ」
工藤にソファーをすすめ彼も腰掛けた。小さなテーブルを挟んで向き合うと緊張度が増す。
「まず、これまでのご協力に感謝いたします」
「えぇ」入会から今日まで3か月。詳細な調査票を提出するのに一苦労だった。その後もヒアリングやメールでのやり取りが多数。
AIで世界中を席巻する会社『V⇔R』ではあるが、本番を迎えるまでは人間的のやり取りが確かに存在した。
「我々としても、良いものが作れたと自負しております」
そう信じたいものだ、工藤は改めて思った。
この技術が生まれた当初、『V⇔R』の客層には金持ちしかいなかった。どの業界でもそうだが世に普及するまでは高額な料金が発生する。『V⇔R』は随所に特殊技術が用いられているため、その傾向は他の業界と比べても顕著だった。契約する旅行時間にもよるが、しばらくは高級車1台分くらいの料金設定をしていたはずだ。
だが彼らの理念追求は揺るぎなかった。『時代の旅。人類の夢』をスローガンに、いつの時代にも行けるユニットを作りあげた。もちろん開発までは長い年月を要し挫折も繰り返したらしいが、妥協せず更なる技術の改変を追い求めた。海外から評判が高まり、名だたる世界のIT企業が技術協力で参入し、株式が上場されると会員数は莫大な数にのぼった。