会社設立20年にして、いまや世界を代表する企業へと成長した。料金も当初の半額まで下がってきている。決して安くはないが、一度体感したユーザーからの評判が拡散され、その圧倒的世界観のためならこの値段は高くない、との評判を呼んでいた。
「4時間のハイクオリティークラスでお間違いありませんね?」
柴崎の問いに工藤は頷いた。
過去や未来の世界に自分の身を置き、体感して帰ってくるだけならスタンダードクラス。そこへ自分のストーリーを織り交ぜ、その世界に没入するならハイクオリティークラスだ。この両者には3倍以上の価格差がある。工藤はどうしても後者を選ぶ必要があった。そのためにいろんなものを犠牲にして金を貯めたのだ。
「当時の状況、場所、時代性等々。そして工藤様から頂いた詳細なデータや動画をもとに、我々は世界観を創り出し、場を提供いたします。あとは工藤様がどう感じられるかです。ただしあくまで仮想の世界であることをお忘れなく」
この会社は世界中のありとあらゆる場所で動画撮影を終えている。しかもその映像を時代ごとに加工し数百年レベルで映像化できるらしい。なおもクライアントが動画や画像を提供できる場合、それらを加工修正し、ストーリーに組み込みこむこともできた。
「それと、お約束条項は読んでいただけましたね?」
「その世界で誰もが知りえない情報を漏らしたら強制終了、でしたね」
未来の話はご法度。そこには厳格なルールが存在する。
「はい、それだけはお止めください。ご存じの通り圧倒的に多いのは事件事故災害で亡くなられた方の所へ行き、それを防ごうとするケースです」
自分にチクリと釘を刺した。柴崎の発言から工藤はそう感じた。
「今回の仕事を通じて私は工藤様の人生を垣間見てきました。対象者である根本さんの人生も。大変お辛いご経験をされた。そしてあなたは、彼女が亡くなられた日にお戻りになる」
「えぇ。彼女が死ぬ直前にね。見届けたいこともある」
「でしたら、見届けるだけにしてください。そこから一歩踏み込んで、彼女の行動を止めるようなことがあれば旅は終了です。この空間旅行は在りし日の思い出を味わっていただくのが目的です。そこにIFは持ち込まないでください」
「わかってます」言葉尻が霞んでいく。
次回更新は2月11日(水)、14時の予定です。
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