「山本雫ちゃんだね」と鳥谷が確認すると、うん、と少女は首を上下に動かした。鳥谷は少女の心境を想像すると心を痛めた。

二人の間にどのような会話がなされたのか、それは彼女たちのみが知ることだ。しかし三好和希に久原真波が殺される瞬間を、この少女が見ていたことはほぼ間違いないだろう。

「友達とは久原さんのことだったのだね。おじさんは、別の誰かかと思っていたようだ。だが一つだけわからないことがある。なぜ私に電話をかけたのか。どうして番号を知っていたのか」

「教えてもらったから」

「誰にだい?」

鳥谷が真剣な面持ちで聞くと、少女は赤い傘を見つめながら言った。

「これをくれた女の人」

「この赤い傘は、久原真波さんのものだよね」

「別の女の人だよ。おじさん、私との約束守ってくれましたね。だからこれは返します。おじさんが約束を守れたら、この傘を渡す約束だったから。おじさんが受け取らないといけないの」

そういって赤い傘を鳥谷に手渡した。不思議そうな顔をして傘を受け取ると声をあげる。

「この傘は雫ちゃんのものだろう? 久原真波さんが君を守るため抵抗した、そして雫ちゃんも久原さんを守ろうとした、二人にとっての特別な赤い傘だ。これからも大切にして」

「ううん、違うの」

少女は首を大きく横に振った。

「だったら、この真っ赤な傘は誰のものなのかな」と鳥谷は不思議そうに首を傾げる。

「この傘は誰のものでもない、だってこの傘はバトンだから」

そういって少女はケラケラと笑う。空が小さな息をつき、ひとしずくがビニール傘に落ちる音がした。

【前回の記事を読む】犯人が事もあろうか共に捜査をしていた警察官だった…パトカーを見送るなり、その場に膝をついて頭を下げた

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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