「そうですか」
「もちろん、お前も一緒に捜査をしてもらうが」
「鳥谷さん、もう勘弁してください、そんな危険な捜査ばかり。鳥谷さんがそういう顔の時は大抵やばいことが起きます。いつか死にますよ?」
その言葉を聞くと鳥谷は大きく白い息を吐き出した。
「なあ、深瀬。俺たちは刑事だ。お互い明日、予期せぬことで命を落とすかもしれない。だからこうしないか。もし死んだら、死んだ方の家族を気にかけようじゃないか」
「突然どうしたんですか。鳥谷さんらしくないですね、鳥谷さんが死ぬことはないでしょうし、その約束は俺に不利じゃないですか。あなたには奥さんと厄介な弟がいるが、俺には誰もいない」
そういうと深瀬は、わざとらしいほどの怪訝な表情をした。鳥谷はそれを聞くなり笑った。
「今はそうだな。お前は冷静で何にも感情を入れて深入りしない。だがお前にもいずれ不安で心配で、眠れなくなるほどの存在ができる。どれだけ抵抗し強がってはいても、人は孤独じゃ生きていけない。きっと守りたい何かができる。だから深瀬、怖がるな」
「また第六感かなんかですか、俺は興味ありませんよ。一人で勝手にしてください」
「深瀬。まだ誰にも伝えていないのだが、相棒のお前には伝えたい。もうすぐ俺に子どもが産まれる」
そう鳥谷が無邪気な表情で言った。深瀬もまたその姿をみて微笑んだ。
鳥谷の視線の先には赤いコートを着た少女が立っている。まるで昨日のあの状況と同じようだ。その姿に深瀬も目を疑うように口を手で覆った。本当にいたのか、まるでそう言っているように。
鳥谷は赤い傘を持つと駆け寄るように少女の方へと向かった。赤いコートを着た少女は鳥谷に向かってにっこりとした。もうすぐまた雨が降りそうだ。風邪をひかないように、そう優しく告げ、持っていたビニール傘を開いた。