殺人事件だとして、最も被害者を憎んでいたのは彼女だ。しかも看護師の彼女なら、アラームを鳴らさずに人工呼吸器を止めることも…
眠れる森の復讐鬼
【第20回】
春山 大樹
幻冬舎ルネッサンス主催『第5回小説コンテスト』特別賞受賞作品。
8年前のいじめが原因で焼身自殺を図り、昏睡状態となっている梨杏。そんな彼女が入院する病院に、かつての加害者たちが交通事故で搬送される。
看護師の一夏が昏睡状態のはずの梨杏が動き回る姿を目撃し、病院内で不可解な殺人事件が発生。
眠り続けているはずの梨杏は本当に復讐鬼となったのか――。
静かな地方都市の病院を舞台に、怨念と謎が交錯するミステリーホラー。
三人の若者が交通事故で救急搬送された。その病院には、8年前高校で彼らにいじめを受け焼身自殺を図り、全身火傷で昏睡状態となり人工呼吸器に繋がれている梨杏が眠っていた。次々と起こる殺人事件…果たして梨杏は復讐鬼となったのか――。憎悪と怨念が渦巻く戦慄のミステリーホラーの幕が上がる。※本記事は、春山大樹氏の小説『眠れる森の復讐鬼』(幻冬舎ルネッサンス)より、一部抜粋・編集したものです。
眠れる森の復讐鬼
午後十七時頃、主治医の山下真奈美が海智の病室に回診にやって来た。相変わらずの無愛想である。
「どうですか?」
(どうですかも何もあったもんじゃない。入院して血液検査とエコー検査をしただけだ。それで何か変わりがあればこちらがびっくりだ)と思ったが、「変わりありません」と海智も無表情で返してやった。
「退屈でしょうけど、大事な検査なのでしっかりやっていきましょう」
そう言って部屋を出て行こうとする女医を海智は呼び止めた。
「昨夜、中村大聖が亡くなったんですよね。僕、同級生だったんです」
女医は細い目を少し丸くして驚いた様子だったが、その眼に今まで見たことの無い輝きが灯ったのに海智は気付いた。
「同級生? じゃあ蒼先生とも同級生ってこと?」
「ええ、中学の頃は一緒によく遊んでいました」
「へえ、そうなんだ」
眼の輝きだけではなく、声のトーンも今までより数段高くなった。