「蒼先生ってまだ研修医なのに本当にいい先生よね。将来的にはこの病院を継ぐ立場なのに、私達にもすごく謙虚だし。それに毎晩夜遅くまで担当患者を回診してるって評判なのよ。この間も私がきつそうにしていたら、当直替わってくれたし。

それにしても運が悪いわよね。今救急救命科を回っているから、その交通事故を起こした同級生三人のファースト主治医を全部しないといけないんだから。

それに、去年の四月に東京から帰ってくるなり、あのもう一人の同級生の女の子も主治医にさせられてしまって。あの子ももうどうしようもないんだから、わざわざ彼に当てなくってもいいのに。お父さんに言ってもう少し負担を軽くしてもらえばいいのにって皆言っているのよ」

昨夜の一夏や海智に対する態度からしてとても今の蒼がそんなに偉い人間のようには思えないが、昔から親や先生に取り入るのが上手い男であった。おまけに容姿端麗ときているから、目上の女性からしたら贔屓にもしたくなるのであろう。

「女の子って信永梨杏のことですよね。何で彼女はあんなに長く入院できるんですか? しかも特室ですよね」

「さあ、知らないわ。私は三年前にこの病院に就職したばかりだから。でも理事長の許可がなければできないことだと思う」

「理事長って蒼のお父さん?」

「そうよ」

ひとしきりおしゃべりして女医は部屋を出て行った。海智は隠していたPCを取り出すと、監視カメラの映像を再生した。先程、金清に気付かれないようにSDカードのデータをコピーしておいたのだ。

次の日の朝、海智の体調は最悪だった。何しろ徹夜で監視カメラの映像を調べていたのだ。しかし、これと言って何の手掛かりも得られなかった。かいつまんで述べると次のようだ。