「久しぶりに会えないか。例のカフェでどうだ」
知之からの何か月ぶりかの誘いのメールは、史を思いがけずうきうきさせた。急ぎOKの返信をした。
史は聡一郎とレストランで食事をしている。〈今日の聡一郎の服装もそつがないな〉そう感じる史は、自分はどんな装いをすればお似合いになれるのだろうかなどと悩んでしまう。
さわやかでキリリとして見える史にはスーツがよく似合う。今日は深いグリーンのパンツスーツ、インナーは白のブラウス。ロングスカートなんて柄じゃないし、などと考えていると
「池田さん、その服の色、すごい好きだな」
「え、そうですか、たまにはロングスカートをはこうかななんて思ってますけど」
「うん、似合いそうだ。ところで、池田さんの故郷は?」
「愛媛県の松山です」
「夏目漱石の『坊ちゃん』の舞台の、あの松山なんだね」
「先生は?」
「福島だよ、父が不動産業をやってる。一人っ子なんだ」
「そうなんですね」
穏やかに会話する聡一郎。〈素敵だなあ、初めてこのような男性に会った気がする〉と思う一方で、知之のしぐさや言葉を何気なく思い浮かべてしまう史は、どこかで何か無理をしている自分がいるとも感じていた。
素敵な聡一郎に見合う自分になるにはどのような努力をしなければならないか、つい考えてしまう。知之とならどんな時も自然体でいられるからだ。
土曜日の午後のいつものカフェ。店内には史と知之の二人だけである。史は知之を見るなり〈あれ? 知之がネクタイを締めている、いいじゃない!〉
「史、本当に久しぶりだな、元気そうじゃないか」
史の澄み切った瞳と目が合った瞬間、知之は無理やり押し殺してきた感情が、一気に噴き出してしまいそうで、平静を保つのに必死であった。