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「どうしてもそうなるのか、やるせないな」
「本当は俺、史に会いたくて、会いたくて。でも史にとって俺は友人以上恋人未満だろうな」
「なんでそう思うんだ? 告ってもないのに」
「ちっちゃい時からずっと見てきてるんだ。感じるんだわ」
「感じる?……そうかあ……感じるんかあ」
二人はお互いを思いやりながら、静かに飲んだ。
史は病棟薬剤師としての業務にも慣れて、いきいきと仕事をしている。史は先生と呼ばれて、高齢の患者から特に人気がある。
「史先生、こっちへ来て」
「先生なんて呼ばないで」
「薬のことを沢山教えてくれるから先生よ」
ここは四人部屋。周りの患者も「そうそう」と口々に言う。
「先生、痛いの痛いのとんでけ~~ってやってくれる?」
「はいはい、いいですよ、痛いのはどこ?」
「ここ」
80歳位の女性が胸を指さした。
史は患者の胸に手を当てて、「痛いの痛いの飛んでけ~~」
「子供の頃、お母さんがしてくれた、懐かしい。痛いのがましになったみたい」
患者の言葉に、史も母にしてもらったおまじないを思い出し、ほっこりあたたかな気持ちになった。
患者の悩みや相談に親身になって対応し、また凛とした態度で他医療スタッフと良好なコミュニケーションを築いている史に、好感を持つものが増えている。
今日は聡一郎と会う約束をしている。いつもの時間に病院を後にして、いったん自宅に帰り急いで着替えをしているところに、メールの着信音がした。書かれている内容を読む史。