深瀬は矢継ぎ早に質問を続ける。鳥谷はその言葉を無視するように女性の身につけていた婚約指輪を、そっと外した。
「気がかりだ。久原真波が失踪した九月三十日に、彼女の身に何があったのか。この前日の九月二十九日は彼女にとって重要な日だった。だからこそ横川は久原真波の失踪を否定し、何かしらの事件に巻き込まれたと県警に捜査を嘆願していたのだ」
婚約指輪の裏には日付と、JMSという文字が印字されている。ブランド名かイニシャルなのか、鳥谷は目を凝らしていた。
「久原真波は未婚です。つまりプロポーズされた日ということでしょうか。プロポーズされた翌日に失踪したってことは、横川淳一が何か事情を知っているかもしれません」
「なぜ今なのでしょうか。どうも引っかかるのですが、何か話ができすぎと言いますか」
「ああ、それにもう一つある。横川淳一の話では久原真波は妊娠していた。だからこそ自殺や失踪などするはずがないと調書にも記されている。だがおそらくこの女性の体重をみるに妊娠していないことは明らかだ」
「この女性は久原真波ではないということですかね」
深瀬は疑問を投げかけた。
「妊娠が横川の思い込みだったのか、もしくは嘘か。なんにしても今は事実を拾い上げていくしかない。深瀬、早急に調べたいところがある」
そう言って鳥谷は口髭をなぞると、コートの水気を取りながら古い蔵に向かって歩き始めた。
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次回更新は2月17日(月)、21時の予定です。
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