「久原真波に酷似していますね。しかし死後数日ということはこの三ヶ月、久原はどこかにいたということでしょうか。静岡県警が目を皿にして捜索しても見つからないなんて」
「いや、現時点ではあらゆる可能性を考えるべきだ。三ヶ月前に殺害され、この環境下に遺棄されたことで遺体の腐敗が進まなかったのか、もしくは数日以内に殺害され、この場所に遺棄されたか。
少なくともこの記録的な豪雨の影響によって土砂が崩れ、発見に至ったことは事実だろう。この赤い傘も本人のものに違いない。泥のつきかたが不自然だ。鑑識に回して痕跡を調べてくれ。遺体は司法解剖をすれば食事の状況などから死亡時期を算出できるはずだ」
そういうと、鳥谷は付近にいた捜査員に指示を出した。金属探知機で現場付近を捜索し、凶器や埋められた証拠物の捜索。そして水流によって流された可能性がある証拠物を下流で捜索するというものだ。捜査員が一斉に動き出すと深瀬が声を上げた。
「鳥谷さん、まずは身元の確認を急ぐべきですよね。遺体の身元がわかればその人物の行動や人間関係、トラブルや仕事の問題など洗うことができますし」
鳥谷は女性の体に鼻を近づけると匂いを嗅いでいた。くんくんと鼻を動かし、その微かな匂いに何か身に覚えがあるような表情をしていた。
「ああ、DNA鑑定を実施する必要がある。ところで、この女性以外に発見された人はいないか」
「いいえ、いません」
そう言って遺体の髪の毛に目を落とした。鑑識は髪の毛や皮膚片を採取しているようだ。
「なぜこの藤山だったのでしょうか。やはり犯人はこの土地の性質や孤立した場所を利用したということでしょうか。そうならば犯人は土地勘のある人物ということですよね。あらゆる可能性を考えるならば、自然災害ということもあるのでしょうか」