沢山いる蔵人の手前もあり、肉親の関係は時として邪魔になる。勿論、弥平にしてみても端に分かる様な態度を取る訳でもない。

仙一は、日頃から蔵人の仕事に誘ってもらった事に感謝をしていた。本当は、父に対する様に弥平に甘えたいとも思っていた。

しかし、彼の下で働く多くの人達の手前そうもいかず、想いに反して知らぬ素ぶりをしてきた。仙一は内心、弥平の下で働くだけ、それだけでありがたいとも思っていた。

父の泰平は、仙一が8歳の時に出征をし、それ以来父は、その時のまま仙一の心の中に生きている。だが、記憶の中の父の思い出はあまり多くはない。モノクロの写真で知っているあの顔が今、自分と働いている弥平と重なる。

そして、黙ってお互いが分かり合える、甥と叔父の関係が二人の間には存在していた。

仙一は、一夫に平謝りしていた。一夫自身、あの場からは逃れたかったからだが、言われてみれば仙一の言う通りで、一夫は以前からタバコ屋のおばさんが好きだった。

少年が、身体の成長と共に青年に成りつつある時期の変化。

一夫の性的本能が、裸同士でタエと絡み合う姿を、想像から現実へ引き下ろしたい想い。

だが、それは叶わない願望か。

人生にはまだ未熟な一夫にしてみても、タエとの間に初恋の花が咲いたわけではない。

いや、やっぱり一夫にとっては、タバコ屋のタエが初恋に成るのか。しかし、一夫には恋愛に対しての理想の夢があった。

自分と同じくらいか、少し年下で、すらーっとして色が白く、ポニーテールの似合う笑顔の女の子。それが一夫にとっての理想のイメージで、中年女性のタエではない。

タバコ屋のタエとは、まだ何事も起こってはいない一夫。それはただ自分の勝手な思い込みで、タエは肌を重ねたいだけの性的な対象だと考えている。

毎日頭に浮かぶのはタエの白い肌、唾液で湿った自分の舌をうなじから背中へ、脇から臍を通ってさらに下腹部へ……彼女の身体の隅々まで自分は知っている……想像の中では。

一夫はいつものとおり上役の使い走りでタバコ屋へ向かった。

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