魔女の涙

「年貢を納めるのはお前達の義務であり、それができないというのは国に反旗を翻すのと同じである」

そう言って手下の者達を呼び、棒で農民達を容赦なく叩き付け、痛め出したのです。その光景を連れの一人を経由して理解したユンはさすがに我慢ならず、男と同じ高官仲間と身分を偽ってユン自ら屋敷に入りました。

「これは失礼。最近近くに越してきたホン・ギュと申します。お取込み中申し訳ないのですが、粗品も持ってきてますし、お先にご挨拶させていただけないでしょうか」

男はばつが悪そうな様子でしたが、ユンを信じたのか、農民への懲罰を止めて屋敷の中へ招きました。こうして暫くの間、男と世間話をした後に王宮へ戻りました。

王宮へ戻るとユンはこの日に見た光景を振り返っていました。母君が信じていた父君の政治及び自身の政治によって弾かれ、苦しんでいる民がいることを初めて知ったのです。胸が締め付けられるような想いと同時に、この状況を打開すれば父君を超える聖君になれるという希望を見出していました。その晩ユンは、ジンにこのように尋ねました。

「今日余が参った地方で納めるべき年貢米は、収穫分の如何程に当たるのだ」

「四割と定められていたはずでございます」

暫く黙って考え込み、次の日ユンは暗行御史(アメンオサ)という潜入部隊を利用して、まずは年貢に関する不正の調査を始めました。ジンも昨日の光景から自分と同じものを感じたのではないかと考え、暗行御史に臨時で推薦しました。勿論ジンはそれを快諾し、調査に加わりました。

高官達の悪名高さは母君を陥れられたユン自身がよく分かっており、民の怠惰より高官が搾取している可能性の方が高いとにらんだのです。その勘は見事に当たっており、ユンが訪れた地のみならず多くの地方で規定以上に搾取し、私腹を肥やしている高官がいたのです。ユンは激怒し、調査の中で不正が発覚した者を全員捕らえ、その度合いに応じて罰則や罷免を命じました。

この一件で年貢米の過剰搾取は大幅に減り、民の間にユンを称える声も上がるようになりました。そこからユンは年貢米に留まらず、他にも多くの不正を厳しく取り締まっていきました。このようなユンに対して引き続き評価する声が上がる一方で、容赦のないユンに対して独裁を恐れ、反発する勢力も現れ始めたのです。