ある日、いつも通り朝廷で重臣達と会議を終えると、ユンの元へサホンがやってきてこのように告げました。

「王様は近頃、政に精を尽くされてお疲れのように見受けられます。そのような王様を楽しませることのできる興味深い者がおります。是非お会いしていただきたいのですが、お連れしても宜しいでしょうか」

ユンは正直疲れが溜まっており、あまり乗り気ではありませんでしたが、そのような自分を察しての申し出だったので許可しました。感謝の意を告げ、通しなさいとサホンが一声掛けると、入って来たのは若くてたいそう美しい女性でした。

身に纏う衣装は特別綺麗というわけではないのですが、洗練された彼女自身の美しさはその事実をも忘れさせ、天女を目の当たりにしているように錯覚させる程でした。

「見慣れない者だが、一体何者だ」

「ヨウという者です。近頃巷で噂の妓生で、その舞は庶民から高官まで数多の者を惹き付ける美しさでございます」

ユンは女好きでも有名であり、最近は女遊びが過ぎると指摘されることが増えていました。そのようなこと知ったことではないと言わんばかりにヨウを前に高揚を隠す気を全く見せず、早う見せておくれと促しました。

ヨウは静かに踊り始め、優雅と思ったのも束の間、次第に烈しさを増し、両者が圧倒的な存在感を示しながらも共鳴する舞にユンはかつてない程の感銘を受けました。ご満悦のユンを見てサホンは加えて言いました。

「お喜びいただけて何よりでございます、王様。然し、これだけでなくこの者は占いもでき、これもまたよく当たると評判なのです」

これを聞いた途端先程まで太陽の輝きを放っていたユンの表情は瞬く間に曇り、サホンを鮫のように鋭く睨みつけました。

「占いだと? そのようなふざけたもので私を楽しませられるとはそなたが落ちぶれたのか余が侮られているのか」

完全に蛇足だと思われましたが、サホンは慌てる様子もなく、「疑うのは構いませんが、お確かめくださいませ」と冷静に促しました。サホンの重圧感に押されたのかユンは前のめりになっていた姿勢を元に戻し、好きにするがよいとやけくそに言い放ちました。するとヨウは口を開きました。

「実態の見えぬ敵の根にご用心ください。陰で養分を蓄え、いつの間にか刃のような枝に育ち、王様のお命を奪おうと眼前に迫るでしょう。恐ろしいのは刃の枝ではなく、それを育てる根でございます。彼らを野放しにすればやがて朝廷にかつてない災いが降り注ぐでしょう」

  

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