はじめに

本書は『源氏物語をめぐって』の第三作に当たり、『紫式部日記』を中心として、『更級日記』と『源氏物語』について記している。

今回、『紫式部日記』を改めて読み直してみた。新たに気づいたこともあり、これまで思っていたこととは異なる結論に至ったものもある。いくつかの点で書き直したが、以前に書いたものよりも、今回書いたものの方が、多少なりとも作品の真相に近づけたのではないかと思っている。

『紫式部日記』には、長く未解決だった多くの問題がある。現在の冒頭よりも前から日記が書かれていて、その部分が失われているという首欠説があり、日記の中に消息文が紛れ込んでいるのではないかという説がある。また日記は一続きではなく、断片的な部分があるのはなぜか、公的な日記であれば、なぜ私的な憂愁の思いが多く書かれているのかという問題もある。

作者紫式部についても、生没年は不明であり、出仕の年も確定せず、『源氏物語』のどの部分をいつ書いたかも謎のままである。

『紫式部日記』には、歴史上の人物の言動も多く記され、作者自身についても多くが語られていて、奥深く魅力的な作品であることを今回改めて感じた。

『更級日記』は、前著『更級日記を読む』の続編であるが、前著で得られた結論によって、もう一度読み直すとどうなるのかを記している。

前著では、日記をはじめて読んだ時の感想が、読み進めるうちにどう変化するかをたどったので、常に最初の感想から離れられないという制約があった。今回はその制約から自由になって、作品全体の結論を部分に反映させるという方法によって、各部分を見直すことを行った。

一つの作品に、別の方向から光を当てるとどうなるのかを試みたのであるが、そこには、はじめて読んだ時には予想もしなかったようなことが多くあり、書くことには多くの困難があった。それでも、こういうふうに読めるのではないかというものを、精いっぱい求めて書き記している。

今回、以前に書いたことをいくつか訂正する結果になっているが、試行錯誤の途中にあり、少しずつ前進しているので、お許しいただきたいと思う。