「なぜ鳥谷さんの携帯に電話が来るのでしょうか? 偶然、ここで人を発見したにせよ、普通は110番や119番に電話をするはずですよね。静岡県警捜査一課の刑事に直切連絡なんてあまり聞かないもので。鳥谷さんの親戚やお知り合いとかでしょうか」

「いや何度も考えたが、思い当たることはない。どこかで私の名刺を受け取ったのか、その理由はわからない。それよりも気になるのは、なぜこの場所にいたのかということだ」

「確かにそうですね。この藤山は観光客もほとんど来ませんし、地元の人しか訪れない神聖な山です。場所も藤市の外れにありますし、右に進めば藤湖トンネルがあるだけで、バスもなく徒歩移動は不可能です。つまりこの時期と時間に、少女が一人で来るとは考えにくい。ましてやこの天候ですから」

「ああ、それに少女は私より十分早く来たと証言したが、それも疑わしい」

「え?」

深瀬がけげんそうな声で反応した。

「少女は確かにずぶ濡れだったが、靴についた泥の一部は乾きかけていた」

「乾きかけていたとはどういう意味ですか、今日は朝から大雨です。いえむしろ昨日から明日にかけての三日間、警戒雨量を超えるほどで避難警報も出ている地域もありますよね。そんな中で足元が乾燥するなんてことありえるのでしょうか」

深瀬が不思議そうな顔をして訊いた。

【前回の記事を読む】「この雨が終わる頃、またこの場所に来て、全部話しますから」そういう少女の視線の先には…

次回更新は2月12日(水)、21時の予定です。

 

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