約束のアンブレラ

「雫ちゃん、もう一度確認するがここへは誰と来た? 一人ではここへは来られないし発信履歴の時間と来たという時間が合わないよね。それにどうして私の携帯番号を知っているのかな」

そう聞くと少女は指を前に出した。ちょうど鳥谷の背後の先に女性ものの赤い傘が置いてあった。

「友達は生きている?」

鳥谷はその言葉に目つきをがらりと変えた。

「友達のことはわからない」

「この雨が終わる頃、またこの場所に来ます。そしたら全部話しますから」

不気味なほどに淡々と少女は告げる。その声色に怒りや戸惑いの感情は読み取れない。顔についた水を振り払うと鳥谷は大きく頷いた。

「この雨が上がったら、おじさんが捜査をして、必ず全ての事実を明らかにする。だからこそ協力してくれないかな」

そういうと少女は、二人だけの約束だよ、と小さな声で囁いた。まるで何かを念じるかのように。鳥谷は眉間に皺を寄せて少し首を傾げたが、ああ、と頷いた。

その言葉と同時に雨は激しさを増していく。鳥谷がふと後ろを振り返ると土砂が崩れた先に、人の手らしきものが見えた。指輪をした手が泥に塗れている。おそらくこの大雨の影響で土砂が崩れ地面から出てきたものだろうか。

鳥谷はビニール傘を少女に持たせ雨に打たれながら前へと進んだ。目を開けるのも必死なほどの雨量が視界と体力を蝕んでいくのがわかる。ごおおと雷が今にも鳴り響きそうな気配がしている。

はあはあと自然と息が荒くなり、吐く息は白かった。手が悴み顔は小刻みに震えている。鳥谷は時計に目を落とすと言った。時刻は九時三十分。