「でも路地にまで入ってきたとしても、音で気付かれるかもしれないでしょ?」
あずみも負けてはいない。
「そうだな。だがその点は、今までのようにバイク少年のいたずらだと思われて、見過ごされていたのかもしれない」
「ああ、そうか。じゃあ、タイヤ跡とかそういうのは残ってなかったの?」
もちろん警察はぬかりないはずだ。あずみは一応確認する。
「現場付近の靴跡やタイヤ痕も含めて、現在捜査中だ」
啓介は眉をひそめて答えた。捜査上、そこまで答えるわけにはいかないらしい。
「そりゃあ、そうよね」
あずみは諦めた。そう言えば、昨夜は断続的に雪が降り続いていた。靴跡やタイヤ痕など残っていたかどうか……。
「あ、それでね。そのときに一応真琴のお父さんの話も聞けたのよ」
話題を変えて、あずみは弁解するように言った。
「櫻井氏の?」
啓介の表情も変わる。
「どんな話だった?」
あずみも、あの近所の男性から聞いてきた通りを正直に話した。
「真琴のお父さんは、恨まれていたりとかは全然なかったみたい。近所の人とも仲良くやっていたらしいし。だから、ますます放火殺人とか考えられないでしょ」
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