「真琴も最初、やっぱりお父さんの火事も放火かもしれない、なんて、かなり意気込んでいたけどね。ふたつの火事は偶然の出来事だったのね」
「ああ、そういうことになるな」
啓介も小さくうなずいた。
「あの後ね。実は近所のおじさんに話を聞けたの」
「おまえ~。刑事の真似なんかして、危険なことはするなと言っていただろう~」
案の定、啓介は怒ったが、近所の住民と多少世間話を交わしただけだと言うと安心した様子だった。
それよりあずみは、その時、話題に出た車のことを啓介に聞いてみたかった。
「それで、あの路地はすごく狭いから車は入れないでしょ?」
「ああ、そうだ。現場検証のときも、パトカーは表通りの道沿いに停めていたからな」
「うん。パトカーなら仕方ないよ。でも日頃、その表通りに車を停めるような人はあの団地の住民ではいないんだって」
表通りに車を停めて入り口を塞ぐ。そんな迷惑をかけるような住民はいない。表通りに路駐するような車があったら、それは外部の人間で相当目立つことだろう。
「だから、昨夜、不審な車が表通りに停まっていなかったかどうか、それを聞きたかったの」
「言われなくても不審車についての聞き込みはしているよ。だが、もともと火事が起こったのは深夜なんだ。表通りに監視カメラでもついていれば別だが、あの人通りの少ない一帯では車の目撃情報は難しいだろうな」
「となると、外部の人間がやってきて火をつけた、ともまだ言えないわけね」
「ああ。もちろんそれは、内部の人間の可能性も含めて双方から捜査をしている」
啓介の言葉から、内部犯の可能性も視野に入れていることが分かった。
「でも、ライターの場所は表通りとは反対の場所に投げ入れてあったよね?」
あずみの言いたいことを察知したように啓介も続けて答えた。
「確かにライターがみつかった場所は、表通りではなく団地側の方角にあった。だが、それが内部の人間の犯行か、外部の人間の犯行かは、決定づけられるものではない。犯人はバイクなどでやってきて犯行に及んだという可能性もある……」
「バイク?」
「ああ。実際、ひところあの辺りで、若者がバイクを乗り回していた時期があったそうだ。住宅に石を投げ入れられるという被害なんかもあったらしい」
バイクという方法があったか、とあずみもうなずいた。