「バンドやろうよ、家で。連絡するから楽器持ってきてよ。カンちゃんは手ぶらでいいから」今度はこの四人のバンドのイメージが湧かない。
ということで日曜日の午後安藤君の家に集合した。卒業生を送る会の出し物の練習に四人で集まったから二回目だ。
イメージの湧かなかった手作りの消音板は壁に立てかけてあった。畳ぐらいの大きさの三枚。裏にベニヤ板、表に段ボールを貼った厚さ十センチぐらいの発泡スチロールに、巻段ボールっていう段ボールの芯に入っている波状の紙を三角の山に折り曲げて貼ってある。三人で「すげー」と何回言ったかわからない。安藤君に指示されて消音板をガラス戸と窓にはめ込んだ。ぴったりだ。
安藤君がもったいつけてから布をさっと取ると、スネアドラムの他に、タムタムが四つも付いた焦げ茶色のドラムセットが現れた。シンバルは響いていい音がした。消音板で窓を塞いで電気をつけた部屋で、金属の枠が銀色に輝いていて中古には見えない。
僕と川井君が楽器を出して準備を始めると、安藤君はベッドの下に手を入れて、キーボードを引っ張り出した。「小学校の頃にピアノを習い始めたときに買ってもらった」と言って、神田君に説明しだした。神田君にベースをキーボードで弾かせようというのだ。
安藤君は「これをやろう」と言いながら手書きの楽譜を僕たちに配った。安藤君がすごいのはこういうところだ。
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