第一章 新しい家族
家 族
お祖父ちゃんはお兄ちゃんにお酒を注いでもらいながら話していたけど、いつもより声が大きかった。前からお祖父ちゃんに訊きたかったことを思い出した。
「お祖父ちゃんの中学生の頃はどんなお弁当を食べていたの?」
「今とはだいぶ違うぞ。中学の頃は腹が減るからなあ、お袋が飯の量だけは蓋が閉まらないくらい入れてくれたな。梅干しと漬け物は必ず入っていた。海苔(のり)を敷いた弁当が多かったな。卵焼きもたまに入っていた。あとは晩ご飯の残り物が多かったなあ。ウィンナなんて高級品でな、魚肉ソーセージを炒(いた)めたおかずがごちそうだった。
そうだ、お袋が残り物の鯨のベーコンを入れたことがあったんだな。これが冷えると固くなって食いちぎれねえんだ。あれだけは勘弁してもらった。組の連中と一緒に食べるのが楽しくてなあ、弁当箱の蓋でお茶飲んでなあ……」
由美がこれは柔らかいよと伊達(だて)巻きを指した。お祖父ちゃんが笑ってつまんだ。
「今のお店を始めたのはどうしてなんですか?」お姉ちゃんも加わった。
「飲み屋の仕事は夜中まで仕事があるが、朝が遅いだろ。朝が苦手だったからなあ。それで飲み屋で働くようになって、親方からつまみの作り方とか焼き鳥の手ほどき受けて、ずいぶんと世話になってなあ、五年くらい働いたかなあ。
その店で前の女房と知り合ってから親方がのれん分けで独立させてくれたのさ。店始めたのと結婚とが続いて、間もなく昭一、ヒロたちの父親だな、それが生まれたのがばたばた重なって、そりゃ大変だった。
親方が助けてくれたのはありがたかったな。乗り切れたのは親方のおかげと若くて体力があったことだな。何しろ、女房子どもを食わせなくちゃいけないって頑張ったからなあ」