「初めて聞く話ばっかりだなあ」と昭二兄ちゃんが言い出した。「お袋と結婚したのはどんないきさつなの」

お祖父ちゃんはハハハと少し笑って話し続けた。

「昭一がちょうど今のヒロぐらいのときに昭一の母親が具合悪くなってな。その頃、お袋の方も無理して働いてきたせいで体が思うようにならなくなっててなあ、女房が結構面倒見なくちゃいけなくなっていたし、店の方も仕込みから手伝っていたからな…

…当時のことだから健康診断なんて受けさせてなかった。ガンが見つかったときにはもう手遅れだった。苦労ばっかかけて、可哀想なことをしたなあ……

昭一はもう中学生だったから手はかからなくなってたがな、お袋の面倒を見切れなくなって埼玉の姉さんに引き取ってもらった……昭一は寂しい思いをしたはずだ。店の二階でテレビを見ながら一人で晩飯食っていたし、さっき弁当の話が出ただろう。あいつにはたまにしか作ってやれなくてパンばかり食べていたはずだ……

そんなこんなで親方がこれを紹介してくれて、見合いしたんだ。間もなくお前が生まれたこともあって、昭一はこれにあんまりなつかなかったけど、やんちゃやっていた時期はほんの短い間だったな。

工業高校に行くって決めてからあとはずいぶん落ち着いた。高校でラグビー部に入ったのがよかったんだろうなあ。明るくなって、よく家でもしゃべるようになったよなあ。中学の先生と高校の先生には世話になった。昭一は先生運がよかったなあ」

黙々とおせち料理をつまんでいるおばあちゃんの方を向いて言った。おばあちゃんは大して興味なさそうに「そうねえ」とだけ言った。