僕が覚えている限り、お母さんが一緒のときはあったけど、お父さんと一緒にお祖父ちゃんのお店に行ったことはなかった。たいてい僕一人か由美と二人だけでお母さんから渡された物をお店に持って行った。おばあちゃんがお父さんの本当のお母さんじゃなかったからなんだ。
みんな箸を置き始めた。お祖父ちゃんだけがあんまりおせち料理を食べていなかった。
「俺ばっかりずいぶんしゃべっちまったなあ」お祖父ちゃんはちょっと照れくさそうに箸を持って刺身をつまんだ。
「お正月らしく、普段聞けない話を聞けてよかったわー」お姉ちゃんも箸を持ってかまぼこを食べた。
高校生のお父さんの姿をイメージできなかったけど、お父さんは工業高校だったから電気工事の仕事をしてたんだ。お祖父ちゃんの話でいろんなことがわかった。わかるとなんか安心できる。
「なんで僕のお父さんは工業高校にしたの?」
「昭一は高校卒業したら就職したかったんだろう。今はどうか知らねえが、当時は就職には工業高校がいいって言われてたんだ」お祖父ちゃんはちょっとお酒を飲んで続けた。
「けどなあヒロ、お前はお父さんや昭二と違って成績がいい。勉強も嫌いではなさそうだ。ラッパも大したもんだ。金のことはなんとでもなるから、大学に行くつもりで勉強するんだぞ」真剣な顔をして僕の目を見た。
【前回の記事を読む】「おせち料理はなー、みんな意味があるんだぞ」孫娘に褒められて顔をくしゃくしゃにするお祖父ちゃん
【イチオシ記事】遂に夫の浮気相手から返答が… 悪いのは夫、その思いが確信へ変わる
【注目記事】静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた