春を呼ぶ少女
リリーは、その首をねぎらうようにとんとんと叩き、手綱を握り直します。
森の入り口に着くと、フルールはひと声、大きく鳴きました。しんと静まり返った森に、フルールの鳴き声がやわらかく広がっていきます。
「ありがとう。始めましょうか」
その言葉を合図に、ふたりは走り始めます。
リリーは、頬に当たる風の冷たさに思わず目を細めました。
後ろへ後ろへと流れていく景色は、冬から春に変わっていきます。硬く縮こまっていた草木の芽が顔を出し、冬の寒さに耐えていたつぼみがゆるんでいきます。雪が溶け、張りつめていた冷たい空気に、春の気配が交じっていきます。
冬眠をしていた動物たちも、これから少しずつ目を覚まし始めるでしょう。
ほんのりと春の温もりを帯びた空気を吸い込んでいると、不意に、フルールが歩調をゆるめ、足を止めました。
「どうしたの、フルール?」
ずいぶん森の奥のほうまで来てしまったようです。リリーは、きょろきょろと辺りを見回すと、驚いて目を見開きました。
木々が生い茂る暗闇から、白銀に輝く毛皮を持ったオオカミが現れたのです。オオカミは、ゆっくりとこちらに近づいてきます。
「きゃっ……。ど、どうしよう……」