100パーセント、利他的な関係性などあるわけがないだろう、多少は自分のためになるからこそ、そこに引力が生じるのではないか。喜美子は開き直った。
ねえ、欲しいものない? 行きたいところは? 二人っきりで旅館に行くのはどうかしら? (鉄筋コンクリート造のマンションでは決して感じられない郷愁というものがある)天然の露天風呂、熱い湯に浸かりながら無限に散らばる星空をゆったり鑑賞するのはどうかしら? 料理もぜったい美味しいよ。地元の旬の食材、山海の幸を堪能しよう、心ゆくまで、贅沢に。
それかテーマパークに行くのもいいんじゃないかな。あ、もちろんいいよ、お友達と行っても。全部払ってあげる、楽しんできな(ちょっぴり嫉妬はするけれど、友情関係なら構わない)。私といれば、衣食住には困らない。独身貴族はお金が有り余っているんだ。ぜんぜん気にしなくていい。あなたに使うために貯蓄をしてきたのだから。
そうだ、誕プレ―誕生日いつ? 何が欲しい? 何かあるでしょう? なんでもいいんだよ、みゆちゃんが好きなもの、何かないの?
【なんでもしてあげるから、どうか私を嫌わないで。ずっとそばにいて】
喜美子の執着・独占欲がつなぎ止める関係性の形は本来の願いとは乖離していく。金銭価値が基礎となった関係性をあれほど嫌がったのに、喜美子自身は、自己の資金力を美結にちらつかせては、美結の欲しいものを買い与えた。
清潔に保ってきた一年に数回のためのゲストルームは、美結の部屋になった。
クローゼットには美結の服が揃い、ブランド物のバッグやシューズ(未開封)、コスメ、さらには、ぬいぐるみが増えていく。大半のものはネットで注文できる。現地で店員とやり取りをする煩わしさもない。想像と違えば、フリマにでも売ればいい。ネットショッピングでの購入金額など高が知れている。
自分のアカウントを教えてやったら、美結は遠慮する素振りを見せたが、「いいんだよ、ほんとに欲しい物だったら、なんでも買ってあげる」と満面の笑みで言うと、前々から狙っていたものや、仲間内での流行のものを次々に購入していった。購入履歴を眺め、喜美子は、得も言われぬ満足感を得る。
【前回記事を読む】私がいなければ、この子は途方に暮れる、暮れてほしい。エゴ?…だとしても、もっと近づきたかった。もっと。もっと。もっと。もっと
次回更新は2月1日(土)、18時の予定です。
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