体内の不純物で濁った濃い涙だった。披露宴で任されたスピーチで喜美子は、アイに対する独占欲があったことを知ったのだった。
喜美子は、拍手に脅されながら、自分の席に戻り、冷たくなった脚をさすった。プログラムの進行が速度を落とした。早く進め、早く進め、ここに私の居場所はない。
皆が「幸福」と言う状態は、私の生きている動線とは交叉しない。してたまるか。と、喜美子の眉間に深いしわが寄る。カリカリカリカリ、不健康な爪の間に角質が溜まっていく。ああ、始まった。一番嫌いな時間が。
「お父さん、お母さん、今日まで育ててくれてありがとう。改めて言うと、少し恥ずかしい気持ちもするのだけれど、今日は、感謝の気持ちをしっかり伝えさせてください。お父さん、お父さんは毎日夜遅くまで仕事を頑張って、疲れているのに、運動会に来てくれたり、遊園地に連れてってくれたね。
すごく嬉しかった。小学生の時、私がある男の子に悪口を言われて、泣いて帰ったことがありました。そのことを知ったお父さんは、その子の家まで私を引っ張っていきました。私は、いいよ、いいよ、と言ったのに、優しく、大丈夫、しっかりと話そう、と言いました。
とても真剣な横顔がかっこいいと思ったのを今でもしっかり覚えています。将来に悩んだ時は、食事に連れていってくれました。一緒にお酒を飲んで、たくさんお話をしましたね。背中を押してくれて、とても心強かったです」
首元がむず痒い。幼馴染の潤んだ目を見ていられなかった。
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次回更新は1月27日(月)、18時の予定です。
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