と、参列者が息でする会話に目尻の神経が軽く痙攣した。それを合図に喜美子は立ち上がり、マイク一点を見つめながら、とつとつとヒールを鳴らして前へ出た。自らの長身に合うよう、スタンドの高さを調整する。二人への祝福の言葉がいざ口から出ようとすると、新郎の名前が消失していって「……本日は、本当におめでとうございます」としか言えない。

「……新婦のアイちゃんとは、幼稚園の頃から一緒の幼馴染です。アイちゃんは……」

喜美子を見つめる参列者は、例外なく男と女だった。幼馴染と新郎の顔の上半分がとろけていた。幸せにのぼせた二人の下品な顔に、アイは、もうアイではないのだと悟った。

私はアイにとって、単なる友人代表。新郎は、アイにとって「夫」であり「友人」ではない。自然と涙が溢れた。会場がどよめくが、あらあら、という式典に織り込まれた感動シーンになってしまう。とにかく次の言葉を体内から絞り出さねば。

「アイちゃんは、優しくて、励まし上手で。高校生の時は、私が模擬試験の結果が出ず落ち込んでいた時に、『よし、じゃあ、気分転換しに行こう!』って言ってくれて、京都旅行に行ったのは、本当に楽しかったです」

沈黙。再開。

「アイちゃんがこんなにも早く結婚するなんて……だって、まだ大学生で、これからまだ、なんというか、社会に出るために、いろんなことを勉強して……自分のことで精一杯な私と違って、アイちゃんは、やっぱり、その名前のとおり、愛に溢れていて、キラキラ輝いてて……とても、遠くに感じて……」と言葉を詰まらせると、幼馴染は、大袈裟にううんと頭を横に振った。

「……二人には、前から出会うことを約束されていたかのような、そんな、神秘を感じてしまいます。アイちゃんの結婚が、まるで自分のことのように嬉しいです。わたしの大切なアイちゃんをよろしくお願いします。お二人、末長くお幸せに。」