バースデーソングは歌えない。

3 抱擁 〜喜美子〜

「うーん、あんま考えたことないから分かんないや」そう言って美結は、にっと白い歯を見せて笑った。

「あたしは、別に、今日死んじゃおうが、明日死んじゃおうが関係ないんだ」

「死んじゃうって……」

「事故でだよ、事故。たとえばね、車にどーんって轢かれて死んじゃっても、なんの未練もないの。だから夢とゆうか将来のことなんて忘れてるし、どうせ八十歳くらいになったら、その将来だったいつかのことだって忘れちゃうんだ。

おばあちゃんがね、もういないんだけど、忘れちゃうの怖くないのって聞いたら、怖いよ、怖いけど、昔のことも、そしてこれからのことも考えずに済むのは、すごく幸せなことなのよって言ったの」

「そっか……」

「お姉さんはあるの? 夢」

「ねえ、」横を向くと互いに目が合った。

喜美子は眉間に力を入れて「私も名前で呼んでよ」と言った。

「キミコ。よろこぶ、美しい子と書いて喜美子。古い名前でしょ」

「むしろ新しくない? あ、しかも、あたしとおんなじ漢字だね、『美』」

「ほんとだ! 嬉しいなあ」

「ねー。どっちも『み』って読むんだね。き、み、こ。じゃあ、ミーちゃんね」

「ミーちゃん」いいじゃないか。猫っぽさもあって良い。

「で、何の話だっけ」

「ああ、ごめん、逸れちゃったね。夢、わたし……わたしのは、何だろう」