自身の生き様に向き合うきっかけを不意に少女から与えられ、言葉に詰まった。

「何になりたいんだろう? よくわかんない質問じゃない? 何か別のものになるって前提、おかしくない? あたしは『あたし』だし、ミーちゃんは『ミーちゃん』でしょ」

喜美子は、自分よりよっぽど熟した考え方を持つ美結にすっかり陶酔してしまう。

「それともなんか欲しいものがあるの?」美結はヘラヘラ笑いながら皮肉を言う。

「いやあ、別に」リビングを見渡す。

「物理的には満たされているけどさ……なんていうか、孤独を感じてる」。欲しい物は全て揃っていた。貯蓄もある。終身雇用制度を頼りに定年まで会社に尽くせば、家のローンは完済できる計算だった。

だが人間関係が欠落している。四十半ばにして、親しい間柄の者はおらず、男性経験もない。歳を重ねても、街ゆくカップルの片方になれるとは思えず、やはりそのとおりにこの年齢まで来てしまった。

「この歳になってね、私はつまり、独り身で、趣味もなく、仕事しかしてない女」

「『孤独』って、寂しいってこと?」

「そうだね……ずっと、何をするにも独りなんだよ。会社に行けば人はたくさんいるんだけどね、おかしな話だよね、いろんな人とのつながりはあるのに、なんでこう、一人ぼっちに感じるんだろうね。みゆちゃんは、たくさん、お友達がいるでしょ?」

美結はいつもの場所、トー横に集まり、似た者同士、傷を舐め合っているはずで、そのコミュニティが喜美子には羨ましく映っていた。

「たくさん? いないいない。同じ時間に、同じ場所にいる、それだけ。ミーちゃんの想像してるような感じじゃないと思う。特別な関係じゃないから気兼ねなくお喋りしたりできるけど」

「……寂しいなあってときとかある?」

「サビシサって、どんな状態をいうの?」

たとえ「居残り状態、自分を愛せていない泥沼状態」のように定義が浮かんでも、そこから抜け出す方法を知らない。喜美子には言語化する余裕がなく、黙るしかできなかった。美結は隣でシロタの頭に顎をのせ、足をぶらぶら左右に揺らしている。