◆人類は「ホモ・サピエンス」になった

直立二足歩行することで起こった体形の変化と体毛喪失によって、大きく進化した人間の臓器がある。それは脳である。

人間の体形が一直線に直立することで、頭が重くなっても支えられることができるようになった。

人間の場合、重い頭は首に押し付ける力(圧縮荷重という)となって働くが、四足動物では、重い頭は首を曲げる方向に働く力(曲げ荷重という)となり、私の試算によれば、圧縮荷重よりも約四〇倍の力となって首に負担をかける。

そのため、脳の容量が大きくなる進化は、直立した人間が享受することになった。そして、脳が大きく進化するきっかけを作ったのが体毛喪失である。膨大な数の皮膚細胞から発せられる危機信号を皮膚自体で情報処理する一方、脳にも信号を伝達し脳で情報処理する必要から脳の機能も拡大して脳は大きく進化したのである。

その結果、人間はラテン語で「知恵のある・人」を意味するホモ・サピエンスになった。進化した脳から多くの知恵が生み出され、今日の人類の繁栄の原点となった。

現在でも、頭の上に大きな水がめを載せたアフリカの女性が、大切な水を遠く離れた水源から歩いて村まで運んだり、重い荷物を頭にのせて移動する女性が活躍している。人間を象徴するこのような光景は、人間が直立二足歩行することによって可能になったわけである。

家族の誕生

しかしながら一直線の直立姿勢は必ずしも人間を利する効果をもたらしたのではなかった。母親が大きい脳を持った赤ちゃんを産むとすれば、母親の産道を傷つけることになり、子供を産むことができない。

子孫が絶えてしまう由々しき問題が生じたのである。その時、人類は奇跡に近い手法でこの難問を解決した。すなわち、ほかの霊長類よりも発育の未熟な段階で産み落とすネオテニー(幼形成熟)の手段を選んだのである。