自分がダメな人間であることが全ての原因だと、親から刷り込まれていたことには気付けず、自分を責めていた。だから、自分の存在価値をとても低く見積もっていた。この時までは。

ぽろもきはパン屋さんの前で、港の船着き場の端っこに1人の女の子がいることに気付いた。

まだ朝霧のかかっている港の、今にも海の中に落ちてしまいそうな場所に腰かけて、女の子は泣いていた。黙って下を向いて泣いていた。

大都会島では見たことのない、穏やかな雰囲気を身にまとう女の子だった。ぽろもきはものすごく引き付けられた。悲しそうな表情と肩は、胸が締め付けられるような感覚になるほど切なかった。

初めはただ見ているだけで精いっぱいだった。目が合ったら気まずくなると思い、パン屋さんの看板を眺めるふりをしてこっそり見ていた。そのうちに、立ち上がってどこかに行ってしまうだろうと思い、女の子の動きを待った。

だが、女の子は一向に立ち上がろうとしない(長く感じたが実際それほど時間は経っていなかったのかもしれない)。

それどころか、新しい涙が次から次へと目にあふれ出していた。新たにこぼれた涙を見た途端、泣いている理由を無性に知りたくなった。

妹が泣いている時は、ほとんどがぽろもきに傷付けられたという訴えだったし、父か母がそばにいる時しか泣いているのを見たことがなかった。

しかし、こんな泣き方をする女の子には初めて会った。そして、できることならば悲しみから救ってあげたかった。

自分みたいな計算のできない男性が考えることではないと思いながらも、勇気を出して声をかけてみたくなった。近づいていって、もしも怖がらなかったら、泣いているわけを聞いてみようと思った。

ぽろもきはなるべく小さな声で話しかけてみた。

「あの~。僕ぽろもき。なんだかすごく悲しそうだったから気になって声をかけてしまいました」

「すみません。こんなところで勝手に座って泣いていて」

「いや、全然謝らなくていいと思う。……あの、どうして泣いていたのか教えてくれますか」

そう言いながら、その女の子の横に座っていた。

「私の名前はのとです」

「あっ、のとさんっていうんだ。いい名前ですね」

「……」

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