お燗を運んできた女将が話に加わってきた。
「おみちさん、どうしてそれを……」
「私も鶴亀堂さんの和菓子が好きだから……。たまたま新聞を読んでいたら死亡記事が目に入ったのよ。急死だったらしいわね、テレビに出てらしたときはお元気そうだったのに」
「え、鶴亀堂の社長さん、テレビに出てたんですか?」
「そうよ。知らないのも無理ないかもねぇ。昼間の番組だから」
「どんな番組ですか」
「ほら、『話の小箱』よ、もう何十年も続いてるじゃない。司会の草柳松子さんがお茶をなさるらしくて、いつも鶴亀堂の和菓子を愛用していたんですって。その関係で出演してもらったって。和菓子の老舗、鶴亀堂の……。えーと、なんていったかしら……」
「守屋龍心(もりやりゅうしん)」
「あ、そうそう。なんかお坊さんみたいな名前よねえ」
「それで、どんな話だったんですか?」
「うーん、よく覚えてないけど、茶道のこととか、お茶菓子の話とか……。あ、そうだ。じつは漢字は日本人の祖先が発明したとか、日本人や日本語のルーツのこととか……。最後なんか白熱してきちゃって、人類の起源がどうとかって話してたわよ」
「もしかしてそれって、光一さんが書いた本の中にも同じことが……」
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