第一章

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翌週の月曜日、光一と啓二は上野にある鶴亀堂本店ビルの社長室にいた。

「はじめまして、葛城です。こっちがウェッブデザイナーの天野啓二です」

「はじめまして。守屋(もりや)と申します」

守屋龍太郎(りゅうたろう)。縦書きで大きく印字された名刺と本人をさりげなく見ながら光一は「若いな」と思った。いくつなんだろう。オレより年下か。仕立てのよさそうな三つ揃えのスーツを着ている。正統派の英国スタイルだ。うまく着こなしてはいるが、光一にはなにか思いきり背伸びをしているように感じられた。名刺交換をすませると、席を勧められそれぞれが座った。

「じつは……。これからお話しする内容はすべて、外部には絶対に漏らさないようにしていただきたいのです」

「はあ、それは……」。いきなりのかん口令に、啓二が面くらったように言い淀んだ。

「お約束していただけますね」。若い社長は真顔できっぱりといった。

「はい、わかりました。その点については安心してください」

「お仕事の話とは別に、もう一つお願いがありまして」。こうした話の成り行きをある程度予測していた。それはコンタクトを取ってきた道筋が、自分の本からであると聞いていたからだ。

「じつは生前、私の父がこの本の著者に連絡を取れと……」

そう言うと、一冊の本をテーブルの上に置いた。

「これは……」。啓二はその本を見ると、隣に座っている光一の顔をのぞき込んだ。

置かれた本は、光一がつい先月上梓したばかりのものだった。