「父は、この本にいたく関心を寄せているようでした」
「いま、生前とおっしゃいましたね……」
「はい、亡くなりました」
「亡くなった……。すみません。失礼しました」
「いえ、構いません。しかし……」「しかし、なんですか?」。言い淀んでしまったのを見て、啓二がコトバの続きをうながした。
「私は、父の死に疑問を抱いています」
思いもよらぬ話の成り行きに啓二は戸惑っていた。光一の顔をうかがうが、ひとつも動揺していない様子を見て、啓二もふしぎと腹が据わった。
「疑問というと……」。落ち着いた口調で光一は、向かいに座る若い社長に問いかけた。
「私は間違いなく誰かに殺されたと思っているのですが、警察は自殺だということで簡単に処理してしまいました」
「誰かに殺されたと感じるのは」
「自殺の理由にまったく思い当たる節がないんです。そもそも父は自殺なんかするような性格でもないし、そんな精神状態でもなかったですから」
「亡くなっていたのはどんな状態で……」
「自分の書斎のドアノブにひもを架け、首を吊って死んでいました」
「警察には何度も訴えたのですが、この件は解決済みだと取り合ってくれません」
一瞬、三人の間に沈黙が流れたがその沈黙を嫌うようにさらに続けた。
「書斎は荒らされてはおらず、なにもなかったように整然としていました。そんな状況もあって当初から警察も自殺と決めてかかっていたようです。それで……」