持統天皇 (六四六~七〇二)

北山にたなびく雲の青雲(あをくも)の星離れ行き月を離れて

(北山にたなびく雲、その青雲が、ああ星から離れて行き、月からも離れて行く……)

夫である天武天皇が崩御したときの歌である。崩御した天武天皇を雲に喩え、その青雲が星も月も置き去りにしてはるか空の彼方に消えてしまうという悲しみをたたえた歌である。月は詠う本人を、星は天武天皇との間に生まれた草壁皇子を暗示していると考えられる。

雲と星と月を一つの歌に取り込み、宇宙的な拡がりを感じさせるこのセンスの良さは、一三〇〇年前に詠われたものとはとても思えない。なお、「北山」とは香具山のことである。

持統天皇と香具山は切っても切れない関係にある。なぜなら、小倉百人一首掲載歌にも「天の香具山」は詠われており、亡夫天武天皇に見立てていると思われるからだ。

香具山は大和三山の一つで、持統天皇が遷都した藤原京とは一・五キロメートルしか離れていない指呼の距離にある。持統天皇は毎日藤原宮から香具山を仰ぎ見て親しんでいたのである。

 

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