序章 ローマの流行作家 自信家たちのエピソード

初デートでも意外な申し出

折り返し彼から返事がきました。

「あなたが到着する日は、すべての約束をキャンセルしてお待ちしています」 

何という嬉しい言葉でしょう。私は夢を見ている気分でした。

彼のことを調べてみると、著名なシナリオライターでした。イタリアでは、マカロニ・ウエスタンシリーズで数々のヒット作を発表していました。ハリウッド映画のシナリオも手掛けており、世界的にも知られる、いわば人気作家ということです。

そんな彼がすべての約束をキャンセルして、私とデートしようとしている……。とても信じることのできない幸運のように思えました。

待ちに待った日がきました。まさに心は宙に浮いているようで、足が地につかない感じです。もっとも、私は飛行機に乗っているのですから、どう頑張っても地に足はつかないのですが……。

私が約束の時間にロビーに降り立った時、すでに彼は私を待っていました。気品のある顔に満面の笑みをたたえ、両手を広げて私を歓迎してくれました。

ホテルを出ると、彼はマセラティを運転し、向かった先は高級レストラン。最高級のイタリア料理なのに、私は味もよく分からないほど舞い上がっていました。

そして食事の後は、ローマの高級ナイトクラブでの語らいの時間が待っていました。私たちは、ロマンチックなカンツォーネが流れるナイトクラブの、柔らかいクッションの椅子にくつろぎました。

その時点から、打ち解けて楽しい恋人同士の語らいが始まるものと、私は内心期待していたのですが、彼から突きつけられた言葉は、私にとって唖然とするものでした。

「僕との結婚の可能性については、全く考えないでくれたまえ。付き合いを始めると、女性は誰でも結婚したいと言い出すので手を焼くんだよ……。君にも初めにはっきり断っておいたほうがいいと思ってね……」