入口から赤眼鏡の女性看護師が入ってきた。恩田という苗字(みょうじ)なので、“恩ちゃん”と呼ばれている。

「どうしたんですか」

「検査ですよ」

「検査? 今日も?」

「先日お話ししたMRIです。そろそろ時間になりますから行きましょう」

恩ちゃんにつき添われ、松葉杖を小さくつきながら談話室を出た。エレベーターに入ると、恩ちゃんがクスクスといたずらっぽく笑う。

「来見谷さん、松生(まつお)さんに気に入られちゃいましたね」「松生さん?……ひょっとして今のお婆さん?」

嬉しそうにうなずく恩ちゃん。まだ学生のように初々(ういうい)しい。

「来見谷さん、そのうち“冬ソナ”のDVDを渡されますよ」

「DVD? そんなの持ち歩いてるの?」

検査は三十分ほどで終わった。

貴重品を受けとると、ふたたび恩ちゃんのつき添いで歩いて病棟へ戻る。病室は、三階の南側にある整形病棟の突きあたりにあった。四人部屋なので、ずいぶんゆったりとしている。仕切りのカーテンが就寝時間まで開かれていて、明るい雰囲気だ。居心地がいい。

  

【前回の記事を読む】「お前があの世に行ったら、愚痴をこぼす相手がいなくなる」「死ななくてほんとうによかったよ」…いいなあ、外を歩けて。

  

【イチオシ記事】遂に夫の浮気相手から返答が… 悪いのは夫、その思いが確信へ変わる

【注目記事】静岡県一家三人殺害事件発生。その家はまるで息をするかのように、いや怒っているかのように、大きく立ちはだかり悠然としていた