音原病院

和やかな空気が漂う三階の談話室。やることのなかった僕は松葉杖で立ちつくしたまま、陽光が降りそそぐ窓の外をぼんやりと眺めていた。視線を落とした前の建物の屋上には、花壇がいっぱいに広がっている。

東京都大田区にある音原病院は、高級住宅街のど真ん中にあるH型をした総合病院だ。五百床ある。平行に並んだふたつの建物が長い廊下で結ばれ、その廊下沿いに談話室があった。僕がこの病院に移ったのは、ほんの三日前のことだ。港口整形外科に脳外科がないため、転院してきたのだ。

これからどうなってゆくのだろう。春には、どこかの病院で、ちゃんと働いているのだろうか。

「兄さん、なんで入院してるん?」

ふり返ると、乾いたキノコみたいな、シワだらけの老婆がこちらを見ていた。

「……秘密です」

「かわいそうになぁ」

老婆は同情するように目を潤(うる)ませながら、ウンウンとうなずいた。

「お婆(ばあ)さんこそお元気ですね」

気を取りなおすように、明るいつくり笑いでお愛想を言うと、老婆の目が鋭く光った。

「あんた、演技してるだろ?」

「え……と……お婆さんは? 演技……してますか?」

老婆はうなずきながら、自分の鼻先を指でさし、「これも演技」と笑った。

「いた! 来見谷さーん!」