〈3人の高校生活(1970年代半ば頃)〉

都立高校の制度として学校群が設けられていた中、その第3学区で最難関と言われたこの高校では、400人を超える新1年生が、体育館での入学式に参加していた。

その誰もが、出身中学校でトップ層の成績(私立御三家に合格しながら、自宅から遠いという理由で蹴ってきた者もいた)を修めており、制服のないここでの自由あふれる高校生活を謳歌していれば、有名大学合格に直結すると、早くも皆が夢描いている高校であった。

入学式を終え、9つのクラスに分かれて入学ガイダンスが行われ、3年生が学校生活の説明をする縦割りホームルームも終わって校舎を出ると、校舎から正門まで続く満開の桜の中、通称「恋の泉」と呼ばれていた噴水池付近で、部活勧誘が行われていた。

・「男は黙って アメフト部」という立て看板の前で、ヘルメット&防具姿の男子たちが、無言でひたすらぶつかりあっていたり、

・未だ肌寒い気温にもかかわらず競泳水着姿で…白川の視界には入らなかった…、ハレンチ丸出しの水泳部男子が勧誘チラシを配ったり、

・定期的に公会堂などで迫力ある演奏会を行うことで、近隣住民からも親しまれているブラスバンド部が有志で生演奏していたり、

・レッド・ツェッペリンの『ロックン・ロール』・『天国への階段』や、フォーカスの『シルヴィア』などを、軽音楽部のパンタロンGパンを穿いた長髪グループが、大音響で奏でていたり、

・どこがと言われると困るのだが、何となく学生運動風の女子が「論じ合いましょう!」とメガホンで叫んで、弁論部への入部を促していたり、

・長机数台の上に即席で拵えた、柔道場の備品の畳1畳に正座しながら、「祝合格!」との書をしたためている風雅な書道部がいたり、

そんな賑やかさを、未だお互いの存在を知らない3人(若き日の白川、深田、西尾)はそれぞれに楽しんでいた。