第三章 暗い心に灯がともる
消え去った夢
私たちがお世話になっている旅行代理店を営んでいる社長さんは、得意な日本語を生かして、日本とネパールの架け橋となる仕事を幅広くされており、中学生や高校生の友好視察のガイドや様々な支援活動などを行われている。旅の手配を進めてくださった写真館の方がグループで行っておられるネパールの支援活動にもつながっている。その関係で、私たちもちょっぴり協力することになった。
それは、使われなくなった日本の鍵盤ハーモニカを、スーツケースに詰めて届けることである。ネパールの学校で使ってもらうためだ。考えてみれば、鍵盤ハーモニカは息を入れることで音の出る構造だから、電気が要らない。
また、息の量を調節すれば強弱が付けられ、表情豊かな演奏も可能だ。しかも、コンパクトで持ち運びやすい。日本では、小学校や保育園、幼稚園で個人購入することも多く、当たり前のように使っているため、自分自身ありがたみが薄らいでいた。今回私たちは、三台ずつスーツケースに入れ、計六台の鍵盤ハーモニカを届けた。
どこかの学校で、ネパールの子どもたちが使うと思うとわくわくする。どんな顔でケースを開け、楽器を組み立てて音を出すのだろう。きっと初めは思い切り息を入れ、やみくもに鍵盤を押して音を出すに違いない。そして、一音だけでなく、同時にいくつかの音を鳴らすことを見つけて、大騒ぎになるだろう。
ネパールには教科としての音楽はないので、休憩時間の遊び道具の一つなのかもしれない。でも、いずれにせよ、子どもたちに驚きと笑顔をもたらすはずだ。自分たちも小さな貢献ができたことが嬉しかった。
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