「あ、やだ、どうしよう」
少女は宙に手をかざすようにして周辺を窺った。咄嗟に骸骨は駆け寄って杖を拾った。
「え、あ、どうもありがとう」
相手は笑顔を見せたが、やや表情は強張っていた。骸骨はハッとした。半身白骨の姿のままだったのだ。ところが少女は全く動じていない、というか視線が合わない。
「あなたはどなた? この辺の人じゃあ‥‥」
「タ、旅ノ者デス、海ガ綺麗ナノデ‥‥ツイ、ソノ」
何となく事情が判ってきた。そういえば東京でも白い杖を持った人を見かけたのだ。そういう人たちは濃いサングラスをかけたり、固く目を瞑ったりしていたが、視線が定まっていないというか小首を傾げて耳に神経を集中しているよう感じが共通していたのだ。
骸骨はさり気なく相手の肘に手を伸ばした。
「何処マデデスカ? 御案内致シマショウ」
骸骨は自分の姿のことも忘れていた。ただ目の前に現れたこの少女の手助けをしたい一心だった。
「ありがとう、でも、もうすぐお姉ちゃんが迎えに来てくれるから」
「オ姉サン?」
聞き質すまでもなかった。目の前に二十歳くらいの女性が茫然と立ち尽くしていたのである。骸骨は相手と目が合って緊張した。心なしか関節が固まってキシキシと軋みを立てた。
一方相手は少女と骸骨を見較べていた。目は豁然と見開かれ、口は真一文字に結ばれてもごもご動いている。何故か骸骨はニヤリと笑った。そして取ってつけたみたいにぺこりと頭を下げると踵を返した。あとはそのまま松林の奥へ姿を消したのである。