塵芥仙人
職を辞して数十年、貯めたお金を元に老人一人で起業したものだった。膨大な借金を抱え込んだために、一日たりとも休業は許されなかった。当時から作業員はいなかったので、助けを呼んでも誰もこない。老人は、ゴミ底より頭上を見上げた。
日が暮れて夕闇が迫り、この時期には珍しく、はっきり澄んだ空には無数の星が顔を出していた。次の晩も、そしてまた次の晩も、夜空でにやつく星どもを恨めしく眺めて過ごした。
だだっ広い休耕地の片隅に建てられたこの処理場、道路からも離れていたので、いくら大声を張り上げたところで誰の耳にも届かない。それでも諦めの悪い粘着質の老人は、観念するまでに七回も星を仰いだ。それ以降は、声を出す気力も失った。なぜ、今日まで生き永らえたかは謎である。
まず人間は、飲まず食わずでは三日も持たない。ところが、ゴミ溜めという所には、水も食べ物もふんだんにあるのだ。ただし、そのすべてが腐っていて、吐き気を催すような臭気を放つ。舌に触れれば、酢酸の如きにしびれる。水は茶褐色に濁っている。きっと朽ち果てた野菜などから染み出した汁が穴底に溜まっていた雨水と混ざり合い腐敗を繰り返したからに違いない。
星の巡りを三回数えた晩、まともな人間であれば決して口にしないこれらの汚物を飲み込むしか生きる術はないと、老人は覚悟を決めたのだ。