塵芥仙人ごみせんにん

そして関心を示し始めた有三の表情に気を良くし、続きを語り始めたのだ。

「例えば、ここで一つ、交通事故があったとしよう。加害者と被害者との遭遇が百分の一秒でもずれておったらどうだ? 大事故には至らず、かすり傷程度で済むことになろう。しかし、この事故が歴史的大事件であって、それを知る者が日本全国に及んでしまっていたら? 

それらの者たちから記憶を一掃するのは、膨大なエネルギーを必要とし、時をずらす行為より遥かに大きな労力が必要となる。残念ながらこのわしの手に負える代物ではなくなる。

だから、わしは、ごく限られた範囲の中で、人知れず何の支障もなく行えるものにだけ、手を染めることにしておるのだ。何度か人捜しもやったが、今の失せ物捜しが一番性に合っておる」

荒唐無稽な話の中で、失せ物捜しとの言葉は、彼に少しばかりの期待感を抱かせるものであった。

「さてと、本題に移ろう。お主の頼みを引き受けてやりたいのだが、それには絶対的な条件がある。もしそれが呑めぬのであれば、残念だが、すぐにでも、お引き取り願うまでだ。その条件というのは二つ。

まずは、わしと交わした約束を決して破らぬこと。皮肉にも、万物の長たる人間が一番これを守らないのだから始末に悪い。お主は大丈夫であろうのう。わしが今日まで命を繋いでこれたのも、人智を超える悪魔の如き力を授かったのも、ひたすら約束を守ってきたお陰なんじゃ。その相手というのが人間以外のものであってものう」

末尾の一言は、消え入るような独白であったため、有三の耳には届いてはいなかった。そして条件はさらに続いた。