「もう一つの条件とは、帰趨(きすう)せし暁には、お主の余命の一部を頂くことじゃ。いかがかな。わしが、奇跡を起こすに当たっては、驚くほどのエネルギーを消失してしまう。それは、己の命をすり減らすに等しい。これを補うには、人様から、寿命の一部を頂く他はない。わしの見立てによれば、お主は大病を起こさぬ限り、後三十年は明るい。すれば、その三分の一、十年をちょうだいするというのではどうかな?」 

有三は、耳を疑うこの突拍子もない提案に、たじろぐしかなかった。そして沸々と湧き上がった身の内の疑念を、ぶつけずにはいられない衝動に駆られたのだ。

「はい、分かりましたと言いたいところですが、正直言ってあなたの話は、あまりにも常軌を逸している。時間を繰るなど、とてもできようもないし、百歩いや千歩譲って、仮にそのような力が存在するとしたなら、なぜにあなたがその力を得られたのか、納得のいく説明をして頂きたいものだ」

「わしの力を疑うのは無理もない。決してお主が初めてではないし、現に、数カ月前だったか、どこぞの社長夫人も同じようなことを言いおった。残念なことに、その者は最後まで信ずることができなかったようだがな。

はっきり申して、このわし自身、いかようにしてこのような力が備わったのか、よう分からん。ただ、想像を逞(たくま)しゅうすると、その切っ掛けはこれしかないということを一つだけ思い返すことができる。そうは言っても、多分到底理解してはもらえんだろうがな」

老人は、有三の思わぬ反撃にやや気落ちしたところもあったようだが、淡々と述懐を始めた。長々と語った内容とは、次のようなものであった。