【前回の記事を読む】『病院を告発する!息子の臓器を返せ!』そう書かれたチラシを持っていたのは、同じ部屋に入院していた子の母親だった
第四章 班女
「いいですよね、お金のある人は。一日五千円。毎日五千円。私には無理だった。だからベッド代がかからない八人部屋にしたんです。でも、多少病室が狭くなっても、建物が古くても、医療自体は同じように受けられると思うじゃないですか。同じ病院ですよ。別に、特別なサービスを望んでいるわけじゃない。それなのに……」
伸枝は湯呑みを握りしめ、低い声で呟いた。
「あの子は、殺されたんです」
「……」
まさ子の脳裏に、友美の顔がよぎった。そして胸がギュッと締め付けられた。
(〈老人病棟〉に行った人は帰ってこれない、普通でない死に方をするんですって)
「殺されたって、どういうことですか?」
「聞いてくださいます?」
「はい。何があったんですか?」
伸枝は両手で顔を覆った。その手を開くと、フーッと深呼吸をして静かに語り出した。
「夜、前の病棟に行くと、違う病棟に移ったということで、そちらにまわりました。建物に入るなり、ひどい匂いがして。それを打ち消すための消毒薬の匂いもきつくて。廊下を歩くだけで、もう気持ちが暗くなるような場所でした。
ナースステーション……というか、小窓がある部屋なんですけど、そこで病室を聞くと、すごく迷惑そうな顔をされて。もう面会時間じゃないっていうんですよ。規則だからの一点張りで、その日は会わせてもらえませんでした。
だから数日後、仕事場に無理を言ってようやく半休を取り、昼間に行ったんです。そうしたら……あの子、縛られてたんですよ」
「縛るって?」