【前回の記事を読む】部屋を移ってから月々の病院費は15万円増えた。医療保険から1日あたり3千円の給付が出るが、全額はまかなえるはずもなく…
第四章 班女
外来の待合ロビーがざわついている。見ると一人の女性が大声で騒ぎ立て、ガードマン二人に囲まれていた。午後二時とはいえ、まだ待合ロビーには会計を待つ人たちが多く残っている。その場に居合わせた人々は、いったい何事が起きたのか、遠巻きにして眉をひそめ、様子をうかがっている。
(あれは……)
まさ子は、騒いでいる女性に見覚えがあった。
(充くんのママ?)
以前透と同じ六人部屋にいた、高橋充の母親だ。
いったい何を騒ぎ立てているのだろう。彼女は大柄なガードマンに行く手を塞がれたまま、後退りするようにしてあっという間に玄関から押し出された。まさ子は本当に充の母親なのか確かめたくて、玄関を出て近寄った。
その女性は、玄関前のスロープを下りたところにうずくまっている。
「もしかして……充くんのお母さん?」
女性は顔を上げた。
「やっぱり。同じ病室にいた城田透の母です。覚えてます?」
「城田さん……」
朦朧(もうろう)としていた瞳に、精神が蘇ってきた。彼女はガバッとまさ子にすがりつき、大声で叫んだ。
「ここにいてはダメ。殺される。あなたの息子も殺される!」
そう言って、バッグから一枚のチラシを渡し、「力を貸して。私に、力を貸して」と懇願するのだった。チラシには、「『高橋充の尊厳を守る会』U総合病院を告発する! 息子の臓器を返せ! 高橋伸枝」とある。
「……臓器を、返せ?」
「臓器を全部奪われるのよ! 充のように! 今すぐここから出て!」
声を聞きつけ、ガードマンが玄関外に出てきた。